2021.04.28

【徒然本店】谷保の本屋さん、小鳥書房のこと

国立本店メンバーによる連載エッセイ「徒然本店」、今回はさとうがお届けします。

国立は本屋が充実していて楽しい。なかでも、谷保駅北口のダイヤ街にある「小鳥書房」によく通っている。

受け渡す

小鳥書房の店内。店主の落合さん(左)と2人のスタッフ。オープンから2年が経った。

小鳥書房では新刊だけでなく古本も扱っており、本がわりと入れ替わる。ある日、平岡正明の『山口百恵は菩薩である』が目に飛び込んできた。

状態のいい初版上製本。思わず手に取って眺めていると、カウンター越しに店主の落合加依子さんから声をかけられた。

「その本、きっと手に取ってくれると思って、そこに並べておいたんですよ」

他に誰もいない静かな店内で、その声はよく通った。聞けば、当時まだ数回しかお店に行ったことがない自分を覚えてくれていて、「いつか来て手に取るだろう」と、棚に出したらしい。もちろん自分が特別なわけではなく、なんと本を買った人全員を覚えているのだという。

そして本の来歴を話してくれた。この本は、国立東のギャラリーカフェが閉店する際に譲り受けたもの。そのギャラリーは、かつて山口瞳や嵐山光三郎などが集った、国立の象徴的な場所のひとつだったという。

その場所は知っていたが、本を手にすることで、街の記憶の一端を受け取ったような気がしてなんとなく嬉しかったことを覚えている。

街の本屋

この2年で、小鳥書房で買った本たち(自宅にて)。
どの本からも、以前所有していた人や編集した人など、顔が見える。

そんな風に、小鳥書房から受け渡してもらった本は、だんだんと増えていった。

たとえば、『まあくんは雨がすき』は小鳥書房の前に同じ場所で営業していたスナックのママさんが息子さんのことを書いた本(小鳥書房を始めるときそのママさんにも背中を押されたらしい)、『ハマータウンの野郎ども』は一橋大で社会学の教授だった林大樹さんの研究室の蔵書(林さんは研究室の本を小鳥書房に譲った縁で2階にまちライブラリーを開いたという)、『マタギ』は近所に住んでいる元新聞記者さんの蔵書、『Go to Togo』と『のろし』は小鳥書房でインターンをして京都で出版社を立ち上げた烽火書房さんが出した最初の本。いずれも本と一緒に物語やつながりを受け渡してもらったような気がしている。

そうした営みを一言であらわすなら、店主が受け止めたものを、本を介して受け渡すということ。通っているうちに、ふと、それが「街の本屋」なのだと気づいた。小鳥書房の書棚から人や街が見えるのだとしたら、それは落合さんが多くのものを受け止めてきた形跡でもあるのだと思う。

そして、その形跡は本が入れ替わるたびに少しづつ変化する。まるで足跡のようで、進んだり戻ったり方向が変わったりもする。自分たちはその足跡と歩調を合わせてみたり、あるいは少し離れて歩いてみたり。ときどきは、示し合わせたように最初から歩調が合うこともある。

たぶん、街の本屋に通うということは一緒に歩くようなもので、一緒に歩く人がいるのは心強いことだから、本屋に通うのだと思う。

***

小鳥書房は4/29からリニューアルオープン。お店を2つにわけ、「書肆 海と夕焼」と共同で本屋を運営するというので、とても楽しみ。

text by SATO

さとう
国立では、増田書店museum shop T小鳥書房みちくさ書店によく行きます。最近できた新刊書店ではバックパックブックス(代田橋)やマルジナリア書店(分倍河原)にも行き始めたところです。

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