2021.06.26

【徒然本店】子ども食堂に惹かれて(後編)

国立本店メンバーによる連載エッセイ「徒然本店」、今回は本店の大学生ライター蒲公英が書いた子ども食堂取材ルポ後編です。その設立の経緯や思いを深堀します。

国立市中地域には、月2回ほどお弁当と子どもが遊べる空間を提供している「たまご食堂」がある。後編では、どうやって「たまご食堂」ができたのか、どんな思いが込められているのかを紐解いていく。

たまご食堂ができるまで

たまご食堂の活動をサポートしている国立市社会福祉協議会(社協)の飯田さんに話を聞いてみた。社協とは社会福祉を行う社会福祉法人のことで、全国の市区町村に存在する。社協は小地域福祉活動を進めており、その一環として地域コミュニティの形成を手助けしている。
「社協の事業活動をしていく上で、(中地域で)隣近所の関係性が希薄になっていることが気になっていたんです。深い関係でなくてもいいけど、防災や困ったときのために声をかけられる、会ったら挨拶程度は出来るような関係を作ることが大切だと感じました。」
そこで飯田さんたちが取り組んだのが横のつながり作りだ。まず、中地域で活動するサークルの連携や情報交換を目的に「中のまち博覧会(なか博)」を一橋大学の国際交流館で開催した。そこで集まった地域住民に「もっと地域のことについて話し合いませんか?」と声をかけ出来上がったのが“なかなかいい会”というコミュニティだ。
飯田さんたちは、活動として通学路の見守りをしていく中で「ご飯は一人で食べている」「朝ご飯は抜いてきた」と言う小学生や中学生が多いことに驚いた。
「それから、なかなかいい会のメンバーで月に一度の定例会で半年間話し合った結果、子ども食堂を作ろうという結論に至ったんです。子どもたちが楽しく過ごせて、いろいろなことが学べる機会を作れたらという気持ちからでした」

たまご食堂誕生の経緯を話している社協の飯田さん

 

飯田さんの話を聞いて私は、子ども食堂は最近知名度も上がってきたが当たり前のように地域に存在するわけではなく、たくさんの人たちが努力して作り上げてきたものなのだと強く実感した。

Everyone is welcome” な空間

最後に、代表を務める木島さんにたまご食堂の特色を聞いてみた。
「ここの特徴は、とにかく来る人を受け入れるところだと思います。幅広い年代の方がスタッフ、利用者として関わってくれているので間口が広いですね。社協は他にも様々なイベントをしていて、その参加者の方もスタッフとして来てくれるのですが、(社協の方は)たまご食堂には安心して人を紹介できると言ってくれます。」

国立の小学校で昔遊びの授業のお手伝いをしたときに小学生たちがくれたお礼の手紙を紹介してくれる木島さん

社協は社会に生きづらさを感じている当事者の方の会を開くなど幅広い活動をしており、その参加者がたまご食堂のスタッフとして手伝いに来ることもあるという。
木島さんが言っていた「人を受け入れる」雰囲気は私自身もたまご食堂に参加してみて実感したことだった。取材当日、たまご食堂へ行くと一日しか来ないかもしれない私のためにスタッフ用のエプロンと名前入りのピンバッジが用意されていたのだ。それらを着用することで、私は全くの部外者から一日スタッフとして皆さんと一緒に活動しながら取材をすることができた。また、誰も「何のために来たの?」と訝しがる人はおらず、「取材ありがとうねー」と気さくに話しかけてくれる人が多く、全く肩身の狭い思いをしなかった。顔なじみでなくても、そこにいることを許される「Everyone is welcome」の空間がそこにはあったのだ。

たまご食堂2021年6月分のチラシ。「Every one is welcome」 というメッセージが掲げられている。

コロナウイルスの影響で人と今まで通りつながることは難しい。だが、いつの時代だって頼れる人が少なくて困っている子供はいるし、周囲にはそんな子供たちに対して力になりたいと思う大人たちもいる。木島さん曰く、ここの人間は「最初から子ども食堂をやろう!」といって集まったわけではないから、子どもだけではなく来る人はだれでも受け入れることが特徴だという。たまご食堂に来た人たちが木島さんたちスタッフと話して笑顔になる姿を見ていると「こういう人が笑顔になれる場所って大事なのに、意外と少ないな」とふと思う。自分たちでみんなが笑顔になれる空間を作っていく人たちの底知れないエネルギーを感じた取材だった。

(記事に載っている方の年齢や肩書は取材当時のものです)

text by TANPOPO
蒲公英
都内の大学生。自称、市井のジャーナリスト。
お散歩とお酒のおつまみが大好き。
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