2015.09.17

【夏のほんまつり レポートその2】トークイベント「いかにして本と出会うのか」

8月21日、初日のトークイベントのゲストはツルハシブックスの西田卓司さん。

ツルハシブックスの名前はいつからか耳に入るようになり、西田さん自身も国立本店へは何度かご来店くださってもおります。2時間のトークは本屋を始めるきっかけ、ツルハシブックスの店づくりのことなど話題は多岐に渡ったのですが、ハイライトだったのは現在ブックスタマ上石神井店内に作っている(9月から月1回プレオープン中)の「暗やみ本屋 ハックツ」に込められた思いの話。国立本店と共通するところも見えてきました。

「暗やみ本屋 ハックツ」は、「10代に読んで貰いたい本」を寄贈してもらい、19歳以下に100円で売る古本屋です。

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−なぜ暗やみの中で?

ツルハシブックスの建物には元々地下室があって、そこで何かしたいと思ってて。暗やみにしたのは片手に懐中電灯持ってるから中を見ようと思ってもなかなか見られない。表紙とメッセージだけしか見えなくなる。その、手描きに込められた非言語的なメッセージがいいのかなとおもったんですね。
ある時一箱古本市に出店したことがあって、店の宣伝を兼ねて話のネタになるような本をいっぱい持って行ったんですよ。そしたら隣で出店してた人がほぼ新品の本を100円とか200円で大量に売ってて、午前中に売り切って帰っちゃったんですよね。それを見て、その人から買った人たちは、その本適当に読むなと思ったんですよ。古本屋で100円で買った本は100円なりの読み方しかしなくなってる、自分自身もあるときを境にそういう読み方をするようになってしまっている、ということにその時に気付いてしまったんですね。それがいつからなのかを考えてみたら、おそらく25歳くらい。そのころから本の価値が経済的なものに支配されてしまっている。そう思ったときに、大人に100円で本を売る意味を見出せなくなった。

ー新潟では29歳以下に設定していましたが

新潟で始めたときも25歳がボーダーだと思ってたのだけどキリのいいところで29歳でやってみた。それを19歳以下にしたのは今回こだわったことで、集客のハードルはぐんと上がるし、実際ブックスタマさんとはそこで揉めた。だけどもやってみると集まる本の質がぐっと上がったんですよ。寄贈する方が中学生高校生がこれを読んだらどうなるんだろう、って考えるわけです。29歳以下でやってたときは、寄贈する方は自分が社会人になりたての頃に読んでたとか、すこし押しつけがましくもなるし、自己啓発みたいなものも入ってくる。それはイメージしてたのと違った。19歳以下にしたのは、偶然性を必要としているのは誰なのか、ということなんですよ。それはやっぱり中学生高校生だと思うし、そこにこだわりたい。まだ生活圏が自転車で行ける範囲しかない、そういう人たちにちゃんと本を届けたい。それを学校以外の空間で。そうしてつながったことが面白いと思ったら、買った人自身が今度は別の誰かに届けたい、そうして寄贈していくようになればいいと思ってる。

ー寄贈で回すことで、「客」と「店」という関係が崩れて、ともに参加者になりますね。

(すごく納得する)ハックツは現代のライブラリの新しい形なのかもしれないですね。100円を介しているけれど、小学校の図書館にあった、「誰が借りたんだろ」というアレみたいな。

(会場で聞いていた国立本店スタッフ)本を介して人と人とを結びつける、ということをやりたいんだなと思いながら聞いてました。方法論は違いますが、やってることはお互いすごく近いですね。

機会を提供するアートを作っているようなものなんです。その本を読んだ人がどうなるかにはあまり関心がない。ただその手法、自分が面白くやりながら、いかに周囲を巻き込めるのか、そこにはすごく執着しています。

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 「客」と「店」という関係性を崩すという話はトークの終盤に出てきた話なのですが、「劇団」というメタファーで本屋をやってることについて、お客さんを共演者と見なしているからいろいろ知りたくなるし、こちらから話しかけるのだと仰ってました。そうしていくうちに、人間にはそもそもコミュニケートしたい欲求があって、ツルハシブックスが売ってるのは本ではなくその欲求に応えることなのだと思ったそうです。そうして「ファン」がが増え、今では毎日50人くらいのお客さんが来られるそう。本を買わずにただ喋りに来る人も結構いるのですが、中にはいつの間にかスタッフに巻き込まれてたりしてるそうです。

国立本店に置いてる本はすべてその持ち主が紐付いてます。たまたま見つけた本でも一緒に並べてる本から持ち主のキャラクターを想像したり、持ち主にとっては当たり前の本の並びでも、見る人にはそれが新鮮に映った結果意外な本を手にしたりすることに面白さを見出してくれてる人がいることは感じてました。ツルハシブックスと国立本店、それぞれのやり方でやっているけれど、やろうとしてることはほとんど同じであることに気づき、ほんとまち編集室がこれまでやってきたことの価値を言語化してくれたような気さえしました。

西田さんはツルハシブックスをを運営している「一見よくわからない」自分たちを、アマチュアバンドみたいなものだと思っているそう。同じような価値観を持つ人たちが集まってなにか表現している、その手段が本であり店だったということです。そんな西田さんが100冊の中から選んだのはなんと「つながるカレー」。国立本店にも来てくださったカレーキャラバンの本です。自分で出資して店をやるように、彼らは旅してカレーを作っている。いろんなことがつながった夜でした。

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