2015.03.14

【「ほんの団地」の物件紹介33 妄想団地102号室】

「妄想団地」には、妄想から生まれた「妄想住人」がいる…

◆エブリ山口 42歳 会社員
102_room

この部屋は山口の隠れ家である。隠れているつもりはないが家族には内緒である。自分では別荘とよんでいる。この別荘には何もない。何冊かの本と布団が一式あるだけ。家族に内緒であるから別荘に泊まることはほとんどない。料理もしない。国立での過ごし方は散歩が中心であり別荘は少しの読書と体を休めるために借りている。山口は街を歩き気に入った場所を見つけてはぼんやり時間を過ごすのが好きである。いつしか「我輩は猫である」と思うようになっている。山口は今年の4月より立川のデパートに勤務となった会社員である。これまで勤めた都心の旗艦店からの移動である。世田谷に妻方の両親から譲り受けた一軒家があり妻と子供2人の4人で暮らしている。山口には没頭できるような趣味はない、仕事以外で何かをしたいとも思わない。面倒な事は嫌いである。今の暮らしや仕事に不満は無いし充足している。
ありきたりとはつまらないことだと誰かに諭されても「平凡こそが美徳である」とかたくなに信じている。そんな山口に変化を与えたのは移動後、初出勤の中央線特別快速の車窓から見えた桜色に染まった国立の眺望である。実のところ山口は学生時代を国立で過ごしていたのだ。ただし特別な思い出があったわけではない。たまたまそこに4,5年の間、住んでいただけである。でも、その日の会社帰りは各駅停車で国立に行こうと思った。国立をはなれて約20年というもの国立を懐かしむことはなかったしそんなノスタルジーに心が動かされる性分ではないと考えていた。山口は「会社帰り花見に来たのだと」自分に言い聞かせ国立駅に降り立った。大学通りの夜桜は美しかったが三角屋根の駅舎がなくなったことを除けばさほど変わらない町並みに驚いた。もしやかつて自分が住んでいた下宿も存在しているのでは?山口は、はやる気持ちを押さえつつ大学通りを南に下っていった。。。
国立高校の脇道沿い、かつての下宿はなかったがその後山口の別荘となる団地にたどり着くのである。

>> 妄想住人・生みの親:江津 / 育ての親(選書):カトケン

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