2018.05.22

【喫茶クニタチ】第九回/白十字

::: お菓子と音楽の「シンフォニー」

満開の桜が美しい3月の国立は、ピアノの音があふれていた。
大学通りにひっそりとおかれたピアノを、子供が弾いていた。
鍵盤の上で紡がれる旋律に、一人、二人と立ち止まった。桜の樹の下にしゃがんで、ベンチに座って、耳をかたむけた。
そんな夢の2週間が終わり、街に舞ったピアノの音は桜の花びらとともに人々の心の中へと。

その余韻に導かれるように、国立のピアノがある喫茶店に足を運んでみようと思い立った。音楽のまちといわれる国立で、音楽好き・ピアノ好きの人ならきっと一度は訪れたことがあるだろうか。洋菓子・喫茶の「白十字」。1955年に国立で創業して以来、地元の人々に愛されてきた憩いの場所である。

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新緑が美しい大学通りを歩くのは、気持ちが良い。白十字の白い看板が見えてきた。お店に入ると、音楽をモチーフにした焼き菓子やケーキが並べられ、弦楽四重奏曲が流れている。奥には、グランドピアノが見える。このピアノもお店の方々と共に、ここで珈琲と会話を楽しみ、久々の再会を喜び、ケーキをほおばって心が満たされた人たちをそっと見守ってきたのかもしれない。

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::: 国立らしさを大事に

グランドピアノが置いてある喫茶店というと、なかなか珍しい。
国立音楽大学の校舎が国立にあった60年ほど前(現在は立川に移転)、創業者の山井和夫さんと奥様で現会長の山井佳代子さんが白十字を創業。
「今の会長が国立音楽大学出身で音楽をやっていたので、グランドピアノを置いてコンサートができるお店になっているんです」と話すのは、店長の竹川さん。なるほど、国立らしさと音楽の両方に包まれて、そこで珈琲とお菓子が楽しめるのである。
特にクラシック音楽となると堅苦しいイメージで敬遠されがちだけれど、誰もが心ゆくまで喫茶と音楽を楽しめる場所がここにはある。それは、白十字で働く方々のお人柄と、国立という土地柄からだろうか。

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創業からずっと心がけてきたことは、ここにしかないお菓子をつくり続けること。「国立らしいお菓子づくり」を忘れずに歩んできたからこそ、白十字でゆったり時間を過ごしたくなったり、白十字の味が恋しくなったりするのかもしれない。

お菓子の名前にも国立らしさへのこだわりが見える。学園都市ならではのスイートポテト「学園ポテト」や、大学通りの石畳をモチーフにした生チョコレート「国立の石畳」など、家で過ごすお茶の時間も国立の街並みが思い浮かんでくる。
国立の旧駅舎の形をした「くにたちショコラ」は、ホワイト(ストロベリー)、ミルク(くるみアロマガナッシュ入)、スウィート(ヘーゼルナッツガナッシュ入)の3種。三角屋根の駅舎に愛着のある人々が買いに来るという。
大学通りの桜並木をイメージしてつくられた「櫻サブレ」は、桜の時期にかぎらず常に人気商品だ。


::: 人生の苦しみも甘いお菓子に

大学通りで大人数でも入れる喫茶店を探してみると、意外と少ないそうだ。
一人のカフェ時間も好きだけれど、時々は懐かしい仲間たちと集まって語りたい。長い休みには遠くから会いに来てくれた家族と良い時間を過ごしたい。奥の座席スペースも広くてゆったり座れるソファ椅子がある白十字なら、団体でも気兼ねなく入れる。常連さんも安心してやって来る。

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お話を聞かせていただいた竹川さんにお礼を言い、いよいよお待ちかねのケーキタイム。竹川さんが選んでくださったおすすめの「ザッハトルテ」や「ショートケーキ」がテーブルに運ばれ、目を輝かせる取材メンバー。ケーキを眺めていると、遠いどこかに置いてきた想い出がゆっくりと聞こえてきた。

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国立音楽大学附属高校を卒業後しばらくウィーンで暮らしていた筆者は、とある喫茶店でザッハトルテを食べた。観光客が押し寄せるザッハトルテ有名店ではなく、街の人々が気軽に訪れる親しみやすいお店だ。単身やってきたウィーンで心細く情けなく自信を喪失していたとき、レッスン帰りにザッハトルテを食べた。甘みと一緒に何か言葉にならない気持ちを噛み締めた。そのときの光景を、白十字で「ザッハトルテ」を味わいながらゆっくりと思い出した。
白十字で過ごすと懐かしい気持ちになったり大事な記憶が蘇ってきたりするのは、これまで大切に守られてきた伝統の味がここに在るから。筆者をふくめ誰かの心の拠り所として、創業から変わらず国立の街を見守ってきた。

珈琲とケーキをいただいた後は、家でのティータイムで楽しめる持ち帰り用お菓子を選ぶ時間。焼き菓子やチョコレートは日持ちがするので、手土産にもぴったり。あれもこれも美味しそうで、迷ってしまう。
ト音記号の形が可愛いクッキー「アンダンテ」と「アレグロ」、チョコレートを挟んだクッキー「メヌエット」、6種の楽器(ピアノ、ホルン、ヴァイオリン、メロディー、ティンパニ、サックス)が楽しいチョコレート「カンタービレ」など、ピアノの発表会や音楽会がより楽しくなるお菓子が並ぶ。モーツァルト生誕250年記念ケーキ「セレナーデ」の箱とケーキの表面には、セレナーデ(アイネ・クライネ・ナハトムジーク)の1小節目が描かれている。

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お土産に選んだ「マドレーヌ」は、今この原稿を書きながら珈琲と共にいただいている。裏のマドレーヌ型のデザインにも思わず注目してしまった。三角屋根の旧駅舎とともに「COPPÉLIA」と描かれている。これもひょっとして…?と竹川さんにお聞きしたところ、やはりバレエ作品のコッペリアに由来していた。マドレーヌという名前に変わった今も、型のデザインはそのまま残されている。お菓子のパッケージにも、古きよき国立と芸術作品が垣間見える。

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白十字でサロンコンサートを開催する場合は、ケーキ・飲物代とピアノ使用料が料金にふくまれていて、お値段もたいへん良心的。気軽にコンサートや発表会の会場として利用できる。ピアノの調律は定期的にされていて希望すればリハーサルもできるので、演奏者にとってもありがたい。
コンサートの時のケーキは、通常のショートケーキの上にト音記号の飾りが施されているそう。音楽でデコレーションされたショートケーキを食べたくなったら、サロンコンサートにも足を運んでみよう。

(ライター:安保美希/写真:加藤健介)

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白十字
国立市中1-9-43
ホームページ:http://www.kunitachihakujuji.com/
電話:042-572-0416
営業時間:9時〜21時(コンサート日以外の日・祝は20時まで)
年末年始短縮営業
喫茶室:ラストオーダー20時(日曜19時)
年中無休

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