2015.09.30

【夏のほんまつりレポート その5】トークイベント「本が届くまでの素朴な疑問」

トークイベントの3回目は松井祐輔さん(HAB発行人)と影山知明さん(クルミドコーヒー店主)。「本が届くまでの素朴な疑問」をテーマに開催されました。

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最初はタイトル通りに私たちが実際に手にする本の、その流通の仕組みと現状について、松井さんによる簡単なレクチャー。書店と出版社の間には「取次」と呼ばれる問屋があります。普段私たちがまず接することのない存在ですが、書店によってジャンルごとに配本の量を変えていたり、無数にある出版社との精算を行ったりと、本の流通においてかなり重要なことを担っていること、そしてそれがあるからこそ、書店に対して影響を持っていて、書店のみならず私たちも実際に恩恵を受けてることも話のなかで実感してきました。取次会社に実際に勤務していた経験があるだけに、いろんな例を挙げながらの話に説得力があります。

でもそのあたりはあくまで一般論。よくある批判のように、無数にある書店すべてが同じように配本された本を並べているわけではないようです。取次に任せずにすべて選書して並べている書店もあれば、ある部分だけを選書をしてる書店もあるようで、そこは書店によっても違います。取次会社もある分野の専門書に特化したり、あるいは店頭販売をしている取次会社もあったりと、出版社に比べたらはるかに数は少ないですが、会社を使い分けたりと無数のパターンがあるそうです。

  そんな仕組みになっている出版流通において、大きな取次や大きな書店はちゃんと存在してくれることは、新刊の文庫本のようなスタンダードな本を手にするために必要と仰います。その一方で小さくても「この1冊をちゃんと届ける」取次の存在が必要であることを指摘されていて、実際にインディペンデントレーベルと商業出版の両方を経験された影山さんが同意してたのが印象的でした。出版も流通も現状について、良い面と同じように悪い面もあるけれどもその悪い面も、だれか個人が、あるいは会社が悪いわけではなく「そういう仕組みになっている」ことは事実としてあって、その中では確かに存在しているはずの「時間を掛けて売れる本」というのが、合理化されてるあまりに対応できなくなっているのではと指摘します。

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そういう中にも、志を持って始めている小さい取次会社も実際に出てきて、小さい本屋なりのやり方ができてきているそうで、松井さんも小屋BOOKSをやる際に大いにお世話になったそうです。小屋BOOKSは9月25日に惜しまれつつ閉店してしまいましたが、松井さんの話には実際にやったという説得力があり、そこに影山さんの事業として成立させるためのプランや資金調達の話が重なり、本屋は始められそうだと安直にも思ってしまったのでした。(横で進行していた私にやろうよと振られました。)小屋BOOKSは2坪の広さで年間で600冊くらい売ったそう。松井さんはこのことを「600冊分の出会いを作った」と言います。これがもし100店舗出来たら6万冊で、こうなっていくとリテラシーは少しずつ上がっていくと仰っていました。全国的に書店数自体がものすごい勢いで減っていて、国立でも8月に老舗の新刊書店が、そしても古書店もここ数年で何店か閉店しています。閉店するのに事情があることはしょうがないとして、新しく始めたい人が出てくるようにしたい。そのために良い本に出会う環境や、本にまつわる仕事で「かっこいい大人」に出会う、そういう機会を作らないと次を担う人は出てこないと松井さんは言います。本に興味を持つプロセスをデザインする、クルミドコーヒーが月に1回ブックカフェをやっているのもそういうことで、ローカルにやることが結果として近いところからリテラシーを上げていくことになっているのかもしれません。国立本店の存在も、その方法は違うけれどもそういう側面はあるのかもしれません。

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  本の流通に始まった話は最後はこれから本屋さんを始めるなら、という話になっていったのですが、影山さんが実際に本を出してみて感じたことが松井さんに補完され、また松井さんの経験が影山さんのビジネス感覚に裏打ちされて、未来の話にもリアリティが感じられるようになっていったのを横で聞いて感じました。国立本店自体が版元となったこのタイミングでお二方のお話を伺うことができて、やれることはありそうだし、国立本店自体がひとつのケーススタディになれるだろうか、そんなことを考えてました。
(伊藤貴大)
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